日本フォーミュラリ学会についてAbout Japanese Society of Formulary

理事長挨拶

この度、日本フォーミュラリ学会を設立し理事長に就任いたしました今井博久と申します。米国にて故Mark・H・Beers博士に師事し、適正な薬物治療推進の研究に従事してから四半世紀近くが過ぎました。その間、わが国で最初の大規模な不適切処方の薬剤疫学調査を行って実態を明らかにし、また日本版ビアーズ基準の開発、ポリファーマシー対策など精力的に活動してきました。七年ほど前から医師、薬剤師などの研究者や実務者らと地域フォーミュラリの勉強会を開き、また私の古巣の厚生労働省の担当者らを交えて制度設計を検討してきました。こうした期間に多くの関係者からは、フォーミュラリの情報発信の組織が必要だ、より一層学ぶ場が欲しい、という声を耳にし、私に学会などを設立してください、という提案を何度もいただいてきました。

超高齢社会を迎えたわが国ではより効果的で効率的な薬物治療の推進が不可欠であることに説明は必要ないでしょう。欧州と比較してわが国の一人当たりの医薬品消費額は二倍以上に到達し国民医療費に対する比率も高く、また高齢者の多剤処方も断然多い状況です。真の患者アウトカムは実際には高くないでしょう。現状ではほとんど実効性ある施策はなく、そうした状態から抜け出すための制度設計や施策立案が喫緊の課題です。もはや放置できる状況ではありません。先進諸国の殆どの国々ではフォーミュラリが導入されており、わが国だけが適正な薬物治療推進策において後塵を拝しています。そうした実態を目にして忸怩たる思いでいた私はフォーミュラリに関する研究、教育、普及などを推進する学術団体の必要性を痛感しておりました。しかしながら、学会設立は生易しいことではありません。様々な困難が存在します。多くの方々に促されても踏ん切りがつかず逡巡していました。

わが国で最初に地域フォーミュラリが導入されたのは山形県酒田地区であり、その地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」の栗谷義樹理事長に学会設立について相談に伺いました。「必要とされているときに、必要な仕事をしなさい」と言ってくださり、「日本の憂慮すべき現状で、今井君が強力なリーダーシップを発揮し、国士として全身全霊を地域医療のために捧げなさい」と励まされ決意を固めました。帰りの飛行機の中から頂に冠雪があって美しい名峰月山を見下ろしながら、研究者として歩んで来た人生を振り返り、私自身の生涯にわたる研究テーマである「地域医療」の集大成として学会を設立することにしました。これまで応援してくださり支えてくださった多くの方々への恩返しの意味も含めて滅私奉公の精神で日本フォーミュラリ学会を発足させ、わが国の地域医療を可能な限り高い水準に引き上げ、患者の幸福に貢献したいと考えております。地域の医師、薬剤師の方々などに会員になっていただき、ともに地域フォーミュラリを理解し推進させて行きましょう。

日本フォーミュラリ学会
理事長 今井博久